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鳴子の自然と、時を重ねて美しくなる器。漆工房ささき三代目・佐々木浩一が語る「用の美」

Interview- インタビュー

鳴子の自然と、時を重ねて美しくなる器。漆工房ささき三代目・佐々木浩一が語る「用の美」

豊かな森と、湯けむり立ちのぼる温泉郷として知られる宮城県大崎市鳴子。この地で江戸時代から続く伝統工芸「鳴子漆器」は、訪れる人々を魅了してきました。

今回は、鳴子温泉駅からほど近い場所に工房を構える「漆工房ささき」の三代目、佐々木浩一さんにお話を伺いました。伝統を守りながら、現代の暮らしに寄り添う器を作り続ける職人の、ものづくりへの想いに迫ります。

(聞き手:DMO TRAVEL編集部)


窓から差し込む柔らかな光の中、黙々と漆と向き合う佐々木さん。

一度離れたからこそ見えた、故郷の手仕事の価値

――本日はお時間いただきありがとうございます。窓から見える山の緑が美しい、素晴らしい環境ですね。

佐々木さん: こんにちは。ようこそおいでくださいました。ここは祖父が工房を構えた場所で、私も子どもの頃からこの景色を見て育ちました。漆の仕事は天候、特に湿度との対話ですから、この鳴子の自然なくしては成り立たないんですよ。

――佐々木さんで三代目でいらっしゃると伺いました。幼い頃から、家業を継ぐことを意識されていたのでしょうか?

佐々木さん: いえいえ、とんでもない(笑)。若い頃は反発して、一度仙台の大学に進学し、全く違う道を考えていました。当時は、毎日地道な作業を繰り返す父の姿が、どうにも古臭く見えてしまって。

でも、都会で大量生産されたものに囲まれて暮らすうち、ふと実家の器を思い出したんです。毎日使っていたお椀の、手に吸い付くような感触や、使えば使うほど艶が増していく様子を。あれは、ただの「モノ」ではなく、作り手の体温や、使う人の暮らしが染み込んだ「生き物」だったんだと、その時初めて気づかされました。そこからですね、この手仕事の価値を自分の手で未来につなげたい、と本気で思うようになったのは。

「器は、使う人が育てるもの」鳴子漆器の神髄“木地呂塗”

――鳴子漆器には、木目を生かした「木地呂塗(きじろぬり)」や、マーブル模様が特徴的な「竜文塗(りゅうもんぬり)」など、様々な技法がありますね。佐々木さんが特に大切にされているのは、どのような点でしょうか。

佐々木さん: やはり、鳴子漆器の原点ともいえる「木地呂塗」の美しさですね。うちはケヤキやトチといった国産の木材にこだわっているのですが、木地呂塗は、その木が本来持っている力強い木目を、透き通った飴色の漆で引き立てる技法です。使い込むほどに木目が浮かび上がり、透明感が増していく「木地呂塗」の器。

よくお客様にお話しするのですが、「漆器は、私たちが半分作り、残りの半分は使い手が完成させる」んです。新品の時が一番美しいのではなく、毎日使って、洗って、拭いて、その繰り返しの中で傷もつけば、色も少しずつ変わっていく。その時間の経過とともに、漆の透明度が増して、下にある木目がくっきりと浮かび上がってくる。これが「器が育つ」ということです。数年後、数十年後に、お客様の手で世界に一つだけの器に育ててもらう。そのための土台を作るのが、私の仕事だと思っています。

伝統は革新の連続。今の暮らしに、本物の漆を。

――伝統を守る一方で、佐々木さんの工房では、コーヒーカップやパスタ皿など、現代の食卓に合わせた新しい漆器も作られていますね。

佐々木さん: 鳴子漆器の歴史を紐解けば、決して古いものに固執してきたわけではないんです。例えば「竜文塗」は、昭和になってから研究開発された比較的新しい技法。先人たちも、常にその時代の暮らしに合うものを模索してきました。

ですから私も、今の若い人たちにこそ、漆器の良さを知ってほしいと思っています。「特別な日の器」ではなく、朝のコーヒーや、普段の食事で気軽に使えるものであってほしい。プラスチックや陶器にはない、口当たりの柔らかさや、手に持った時の軽さ、温かさを知れば、きっと毎日が少し豊かになるはずです。和にも洋にも映える、モダンなデザインの漆器も手掛ける。

この手仕事の温もりを、ぜひ鳴子で。

――最後に、この記事を読んでくださっている方々へメッセージをお願いします。

佐々木さん: 鳴子温泉郷は、素晴らしいお湯と自然に恵まれた場所です。その旅の思い出の一つとして、私たちの手仕事にも触れていただけたら、これほど嬉しいことはありません。

写真や言葉だけでは伝わらない、漆のしっとりとした肌合いや、手に取った時の驚くほどの軽さを、ぜひ工房で体感してみてください。そして、ご自身の暮らしの中で、ゆっくりと器を育てていく楽しみを味わっていただければ幸いです。鳴子の美しい風景とともにお待ちしています。

――使う人の暮らしに寄り添い、共に時を重ねる器。佐々木さんの温かな人柄が、そのまま器に表れているように感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。


工房情報

工房名漆工房ささき(うるしこうぼう ささき)
住所〒989-6823 宮城県大崎市鳴子温泉字新屋敷XX
電話番号0229-XX-XXXX
営業時間9:00~17:00
定休日不定休
ウェブサイトhttps://www.urushi-sasaki-naruko.jp (架空のURLです)
備考工房見学をご希望の場合は、事前にお電話でお問い合わせください。

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